東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)153号 判決
事実及び理由
一 本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決の理由の要点についての原告主張の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、本件審決を取り消すべき事由の有無について判断する。
原告は、本件審決は本願考案が奏する特段の実用上の効果を看過誤認し、本願考案をもつて引用例に記載の装置から極めて容易に考案をすることができたものとした点において違法である旨主張するところ、引用例には本願考案と同様の構造をもつ「ブラシ無し励磁装置の整流器装置」が記載されていて、本願考案と引用例に記載の装置とは、整流器輪と回転軸中の引出導体との間の電気的接続構造について審決認定の点で相違すること及び引用例に記載の装置における整流器輪のハブも本願考案における整流器輪のハブと同様に整流器装置の直流出力に電気的に接続された充電部であること並びにこのような整流器輪が取り付けられている箇所の直下まで引出導体を配設することが周知の技術手段であることは、いずれも当事者間に争いがなく、右事実に、成立に争いのない甲第二号証(本願々書)、第三号証(引用例)及び第六号証(手続補正書)を総合すれば、次の事実を認めることができ、これを左右するに足る証拠はない。即ち、
引用例に記載の装置では回転軸上に整流器輪を取り付け、この整流器輪と回転軸の中に配設されている引出導体とを接続するために、回転軸体の一部を回転軸体の半径方向に絶縁して貫通し引出導体に接続されているところのスタツド(本願考案における接続体に相当する。以下、「接続体」という。)と整流器輪との間に、回転軸の外側を回転軸方向に絶縁導体を延在させ、この絶縁導体によつて両者を接続するものであるところ、以上の点が本願考案における整流器輪と回転軸中の引出導体との間の電気的接続構造についての相違点であつて、即ち本願考案では整流器輪と回転軸中の引出導体とを接続体で接続し、引用例に記載の装置における前記絶縁導体を必要としないのであるが、引用例に記載の装置において絶縁導体を延在させこれによつて整流器輪と接続体とを接続する前記のような構造をとつているのは、整流器輪が取り付けられている箇所の直下まで引出導体が配設されていない構成であることに因ること、しかしながら、回転軸上の整流器輪が取り付けられている箇所の直下まで引出導体を配設することは周知の技術手段であること、以上の事実を認めることができる。
右認定の事実によれば、引用例に記載の装置において、右周知の技術手段のように引出導体を配設することについて技術的に困難を伴うものであると認むべき証拠はない本件においては、引用例に記載の装置において、本願考案のように回転軸上の整流器輪が取り付けられている箇所の直下まで引出導体を配設すること、換言すれば、整流器輪を予め引出導体が配設されているところに取り付けることは当業技術者にとつて単なる設計事項にすぎないとするのを相当とする。しかして、引用例に記載の装置において、整流器輪の直下に引出導体が存在するならば、接続体を整流器輪のハブ上に設けることにより絶縁導体を使用せずに整流器輪と引出導体との間の電気的接続をすることができ、したがつて、引用例に記載の装置における絶縁導体が不要となることは、叙上認定の事実及び本件口頭弁論の全趣旨に徴し明らかである。してみれば、本願考案における、整流器輪と回転軸中の引出導体との間の接続構造を前記のようにすることは、引用例に記載の装置及び周知の技術手段から、当業技術者の極めて容易に想到しうるところというべく、しかして、叙上認定してきたところに徴すると、原告が主張する、当事者間に争いのない本願考案の奏する実用上の効果も、本願考案が、引用例に記載の装置における絶縁導体を使用する必要がないことに主な理由が存することであつて、本願考案の接続構造を採用するに当たり当業技術者において当然予測することができる効果の域を出ないものとみるのを相当とする。
以上のとおりであるから、本願考案は引用例及び周知技術に基づいて、当業技術者が容易に考案をすることができたものと認定、判断して、実用新案法第三条第二項の規定により実用新案登録を受けることができないとした本件審決に違法はない。
三 よつて、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がないので棄却することとする。
〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。
交流励磁機の回転軸に絶縁して取付けられるハブと、このハブから半径方向に延在するフランジと、このフランジの先端から上記回転軸と同心状で互いに反対方向に延在する筒状のリムとからなる一対の整流器輪、上記両方のリムの内側面に絶縁物を介してそれぞれ支持される導体、上記両導体を上記交流励磁機に接続するリード線、一方極が上記両導体に、他方極が上記リムに、それぞれ接続される整流器装置、上記回転軸の軸方向に設けられた貫通孔に軸体ならびに相互間を絶縁して配設される一対の引出導体、上記両ハブを半径方向にそれぞれ貫通し、且つ上記軸体の一部を半径方向に絶縁して貫通し、上記整流器輪と上記引出導体とをそれぞれ接続する接続体を備え、上記引出導体の一方を直流正端子、他方を直流負端子として利用し交流発電機の励磁回路に接続するようにしたことを特徴とするブラシ無し励磁装置の整流器装置。